犯行から年月が相当経過した後に立件される事例を弁護士が解説
控訴審の問題に限りませんが,時効にまではいたらなくても,犯行から相当長期の年月が経っていて,犯人が既に新しい生活を送り,犯罪にも手を染めないで地道に生活していたところ,逮捕され,起訴されるというケースがあります。
被害者がいる犯罪では,犯人がどんなに真面目な生活を送っていようが,犯罪被害を被った痛手は消えず,刑罰を軽減することはできませんが,薬物犯罪など,直接の被害者がいない犯罪にあっては,現在の生活状況などを一定程度考慮すべきではないかという議論があります。特に最近多いのは,特殊詐欺(いわゆる振り込め詐欺)において,当初逮捕・起訴の際に,余罪を十分に解明できなかったケースにおいて,被告人が実刑判決を受け,服役を終えて人生をやり直し,結婚もし,子をもうけ,犯罪とは縁のない生活を長期間送っていたのに,服役する前の余罪事件が発覚して逮捕され,起訴されてしまうというケースです。
犯行から一定年月が経ち,既に犯罪環境から抜け出し真面目な生活を送っている者に対する量刑のあり方については,いくつかの参考となる裁判例が存在します。
以下,裁判例とともに元検事である代表弁護士・中村勉が解説いたします。
1. 大阪地判昭和50年12月11日(判例時報814号161頁)
この事例では,犯行後に結婚し,子を設けた被告人に対して,「被告人の妻子にとっては,被告人の犯行は被告人と知り合う前または本人の出生前の出来事であり,今回の収監はまさに青天の霹靂とも言うべきであって,今ここで被告人を長期間拘禁施設に送ることは,被告人の収入によって生計を維持している家族を家族成立前の過去の事実によって処罰するに等しい結果を招く」と判示し,被告人に対して執行猶予付の判決を言い渡しています。
2. さいたま地判平成21年10月22日(平成21年(わ)第1131号)
この事例では,被告人の刑事責任が重く,「被告人に酌量減軽を相当とすべき事案ではない。」と判示しながらも,「これまで十分に目を向けなかった家族との平穏な生活の大切さに気付き,子供達をしっかり養育して被告人の子供達に恥じない社会人として更生すると誓っている」ことを被告人に有利な事実として酌んだうえで,被告人に対し執行猶予付の判決を言い渡しています。
3. 神戸地判平成21年2月9日
この事例では,「社会復帰後の被告人Cは,大学進学に向けて勉強を続け,被告人Dも高校を卒業して就職し,両親が立替えた被害弁償の資金を返済するなど,被告人両名が共にその生活態度を改め,差戻前一審において指導監督を約束した両親のもとで真面目に生活をしていること」を考慮して,傷害致死と言う重大案件の被告人に対して,執行猶予付き判決を言い渡しています。
このように,量刑にあたって,犯行後の情状として,現在の生活状況等が考慮され,被告人にとって汲むべき事情となり得るのです。
控訴審においても,一審がそのような犯行後の情状を重視していない事例にあっては,量刑不当において,そのような犯行後の事情を主張して減軽を狙う余地が十分あります。