控訴審で新証拠を提出できるか|刑訴法382条の2について弁護士が解説|控訴 弁護士サイト

控訴審で新証拠を提出できるか|刑訴法382条の2について弁護士が解説

控訴・上告コラム 控訴審で新証拠を提出できるか|刑訴法382条の2について弁護士が解説

控訴審で新証拠を提出できるか|刑訴法382条の2について弁護士が解説

控訴審と一審における重要な違い

 控訴審は一審と手続きにおいて,いくつか重要な違いがあります。以下の通りです。

 ①控訴審では被告人に対する「人定質問」や検察官の「起訴状朗読」などは行われません。
 ②控訴審では原則として新たな裁判資料の提出を認めていません
 ③控訴審では被告人の出席は必要ではないため,被告人が出席していない場合でも裁判は開かれます。ただし,多くの場合,被告人は出廷しているのが現状です。
 ④刑事控訴審では裁判員裁判は行われません。

 特に重要なのが②です。控訴審は続審ではなく,事後審であり,第一審集中主義の観点からも,新たな証拠請求は原則認められません。ただし,やむを得ない事由があるとき,例外があります
 それは,刑事訴訟法382条の2に規定されており,「量刑不当・事実誤認に関する特則」と呼ばれています。以下のように規定されています。

 1. やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかった証拠によって証明することのできる事実であって前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは,訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であっても,控訴趣意書にこれを援用することができる。
 2. 第一審の弁論終結後判決前に生じた事実であって前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものについても,前項と同様である。
 3. 前二項の場合には,控訴趣意書に,その事実を疎明する資料を添附しなければならない。第一項の場合には,やむを得ない事由によってその証拠の取調を請求することができなかった旨を疎明する資料をも添附しなければならない。

 この3項は,やむを得ない事由によって第一審で取調べを請求できなかった証拠から,上記の量刑不当・事実誤認の控訴理由があると信じる事実がある場合には,控訴趣意書に記載することができるとするものです。
 このような例外が設けられたのは,当事者が一審において主張できなかったことにつき,当事者を非難できないときは,控訴審において新たな事実の取調べを認めても,第一審集中主義が軽視されるおそれはないからです。
 問題は,この「やむを得ない事由」とはどのような場合を言うかです。やむを得ない事由の有無は,物理的な可能性の有無を基準にするのではなく,物理的に可能であっても,第一審で取調べ請求しなかったことにつき,当事者に責任を問えるか(答責性)の観点から判断すべきです。具体例を見ていきましょう。

「やむを得ない事由」が肯定された例

  • 検察官が,原審の弁論終結前に刑の執行猶予言渡しの障害となる被告人の前科に関する証拠の取調べを請求することができなかった事例(東京高判昭和43年4月30日)
  • 第一審判決後,強姦事件の被害者1名と示談が成立し,その示談の成立が判決後になったのはやむを得ず,一審判決時に示談が成立していればより短い刑が言い渡されていたとして,一審判決を破棄して減軽した事例(東京高判平成22年5月26日)
  • 第一審において,犯人が眼鏡を掛けていたという点が主張立証の俎上(ソジョウ: 問題として取り上げて議論すること)に載せられていなかったにもかかわらず,判決理由中で突如この点を認定して,無罪判断の中核的理由としたため,この点に関する主張立証を新たに展開する必要性が生じたとされた事例(東京高判平成25年9月10日)

「やむを得ない事情」が否定された例

  • 被告人が第一審当時において,身体が衰弱しており争う気力を失っていたことが,「やむを得ない事由」にあたらないとされた事例(大阪高判昭和44年10月16日判決)
  • 弁護人が証拠の存在を既に知っていたが,被告人の要望もあって原審において全く主張せず,控訴審において初めて主張することが,「やむを得ない事由」にあたらないとされた事例(東京高判昭和43年10月22日)
  • 控訴審において弁護人が自首の主張をし,新たな証拠として被告人の検察官調書を取調べ請求したが,原審において公判前整理手続を経ており検察官から証拠開示がなされていたことが,「やむを得ない事由」にあたらないとされた事例(東京高判平成21年10月20日)
  • 被告人が第一審において,量刑上有利に扱われることを期待して事実を争わず,控訴審において初めて主張したことが「やむを得ない事由」にあたらないとされた事例(最決昭和62年10月30日)

 例えば,一審で実刑判決を受けると,二審こそはもっと証拠を出して逆転を狙おうと考える方もおりますが,このように,控訴審は厳しいルールがあり,思うようにはいきません。ただ,日本の裁判ルールは,職権主義と言って,真実発見のため,裁判所に大きな裁量権が認められています。
 新たに提出された証拠につき,たとえやむを得ない事由がなくても,裁判所が真実発見のために重要な証拠であると判断したときには,裁判所の専権により職権で証拠採用する途が開けています


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