控訴審の構造と控訴の要件|控訴できる要件と理由を弁護士が解説
控訴審の構造
控訴とは,第一審の判決に不服がある訴訟の当事者が,控訴裁判所に対し判決に誤りがあることを主張してその取消しや変更を求める手続をいいます。控訴審は,一審の裁判とは全く異なった手続となっていて,事後審化が進んでいます。
つまり,控訴できる理由が限定されており,控訴申立は,控訴理由があるときに限ってすることができます(刑事訴訟法第384条)。一審重視主義の現れです。ここで,事後審を含む控訴審の構造について説明します。
(1)続審
続審とは,下級審の審理を基礎としながら,上級審においても新たな訴訟資料の提出を認めて事件の審理を続行することをいいます。
簡単にいえば,控訴審は第一審の審理を土台にするものの,第一審の延長として引続き審理を継続するというものです。
日本における民事訴訟は,控訴審においても新たな証拠や主張を提出することができるため,「続審」制であると考えられています。
(2)覆審
覆審とは,下級審の審理とは無関係に,上級審が訴訟資料を集め,その訴訟資料に基づいて新たに事件の審理をやり直すことをいいます。
簡単にいえば,控訴審が,第一審と無関係に,第一審と同様の手続を改めて行うことをいいます。
日本における旧刑事訴訟法の控訴審は,第一審と同様の手続を繰り返していたため,「覆審」制であったと言われています。
(3)事後審
事後審とは,上級審が自ら審理を継続して新たな心証を形成するのではなく,下級審の訴訟資料に基づいて原判決の当否を審査することをいいます。
簡単にいえば,控訴審が,第一審の訴訟記録に基づいて,第一審判決の当否を事後的に判断することをいいます。日本の刑事控訴審の審理では,場合によっては,公判期日において事実の取調べが行われることがありますが,基本的には第一審のように証人や証拠の取調べは行われません。原則として新たな裁判資料の提出を認めておらず,一審で取調べられた証拠に基づいて,第一審判決の当否が事後的に審査されることになります。このことから,日本の刑事控訴審は,「事後審」制であるといえます。
もっとも,第一審判決の後に量刑に関する事実が新たに生じた場合や破棄自判の場合等には事実の取調べが行われるため,事後審の性格は一定程度緩められているといえます。
控訴の要件
では,一審判決に不服がある場合,どのような理由で控訴できるのでしょうか。刑事訴訟法が以下のように規定しています。
まず,絶対的控訴理由と言われるものがあります(刑事訴訟法第377条,378条)。下記の法令違反がある場合には,法令違反が一審判決の結果に影響したかどうかを問わず,法令違反があることのみを理由として控訴理由となります。
絶対的控訴理由
- 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと
- 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと
- 審判の公開に関する規定に違反したこと
- 不法に管轄または管轄違を認めたこと
- 不法に,公訴を受理し,またはこれを棄却したこと
- 審判の請求を受けた事件について判決をせず,または審判の請求を受けない事件について判決をしたこと
- 判決に理由を附せず,または理由にくいちがいがあること
相対的控訴理由
次に,相対的控訴理由と言われるものがあります(刑事訴訟法第379条)。下記の法令違反がある場合には,控訴理由となります。
法令違反
法令違反があり,その法令違反が第一審の判決に影響を及ぼすことが明らかである場合,控訴理由となります(相対的控訴理由)。
絶対的控訴理由と異なり,法令違反が第一審の判決に影響を及ぼすことが明らかである場合に限って,控訴理由となります。
なお,「判決に影響を及ぼすことが明らか」とは,その法令違反がなければ異なる判決がなされたであろうという可能性が高い場合を意味します(最大判昭和30年6月22日)。
法令適用の誤り(刑事訴訟法第380条)
一審の判決に実体法の解釈・適用の誤りがあり,その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである場合には,控訴理由となります。
実体法の解釈・適用の誤りとは,認定された事実に対して適用すべき法令が適用されていないこと等をいいます。処断刑の範囲内ではあるものの,宣告刑が不当な場合も,控訴理由になります。
量刑不当(刑事訴訟法第381条)
第一審の判決の量刑が不当である場合には,控訴理由となります。量刑が不当とは,第一審判決で言い渡された刑が合理的な裁量の範囲外にあることをいいます。
実務上は,量刑不当の控訴理由が大半となります。
事実誤認(刑事訴訟法第382条)
一審の判決に事実の誤認があって,その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである場合には,控訴理由となります。
事実誤認とは,第一審判決が認定した事実が,訴訟記録中の証拠を考慮して認定されるべきであった事実と合致しないことをいいます。
「事実」とは,刑罰権の存否やその範囲を基礎付ける事実をいいますが,簡単にいえば,犯罪が成立するために必要な事実のことです。
また,「誤認」があったかについては,第一審の事実認定が論理則・経験則に照らして不合理であるかで判断されます。これは,簡単にいえば,証拠の存在と認定された事実が論理的に整合するか,経験上不自然ではないかを意味します。
なお,たとえ,事実誤認があったとしても,その事実誤認を差し引いても判決結論に変わりがない場合には控訴理由になりませんので注意が必要です。
ところで,事実誤認と言えるかどうかは,「第1審判決の事実認定が論理則,経験則に照らして不合理であるか」という基準で判断する,という裁判例が出ました(最判平成24・2・13判時2145-9)。
即決裁判手続による判決については,事実誤認は控訴理由になりません(403条の2第2項,413条の2)。
再審事由(刑事訴訟法第383条1号)
確定した判決に対して再審請求ができる事由がある場合には,控訴理由となります。再審事由がある以上,判決の確定を待たなければ不服申立できないとしては迂遠であることから,このように規定されています。
控訴審の手続き
次に,控訴審の手続について説明します。控訴の申立ての手続に問題がなかった場合には,刑事事件の場合,高等裁判所で控訴審が開かれることになります。
もっとも,刑事控訴審は,原則として新たな裁判資料の提出を認めていないため,第一審とは手続が異なります。
刑事控訴審では,第一審で取り調べた証拠に基づいて,第一審判決に上記の控訴理由が存在するかを事後的に審査します。
刑事控訴審の流れ
刑事控訴審は,第一回公判期日前に,控訴趣意書・答弁書・訴訟記録について検討し,第一回公判期日では,控訴趣意書に基づく弁論や答弁書の陳述が主に行われることになります。
また,場合によっては,公判期日において事実の取調べが行われることがありますが,第一審のように証人や証拠の取調べは行われない事件が大半です。
刑事控訴審は,上記の手続を経て,控訴棄却決定・控訴棄却判決・原判決破棄判決(破棄差戻し・破棄移送・破棄自判)・公訴棄却を行うことになります。